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軟組織の問題について

軟組織の問題について

a.歯肉退縮


歯の周囲の生体バリアーである付着は、歯周病菌により感染を受けると破壊され、結合組織性付着は根尖側に移動して歯周ポケットが形成されます。歯を支える歯槽骨は吸収され、その結果歯肉は下がり歯が長くなります。しかし、歯周病菌による感染を受けなくても歯肉が下がる場合があります。この現象を歯肉退縮といいます。
最近、「歯肉が下がって歯が長く見えるようになってきた」「冷たいもので歯がしみる」「歯ブラシ当てると歯がピリピリ痛い」などのような自覚症状はありませんか?

b.歯と骨の位置関係
59歳女性の上顎前歯部に生じた歯肉退縮59歳女性の上顎前歯部に生じた歯肉退縮2

59歳女性の上顎前歯部に生じた歯肉退縮

この写真を見ると、歯肉が薄く歯根の形態が歯槽粘膜下に透けて見えています。
歯は歯槽骨により支えられており、その骨を覆うように存在する歯肉が退縮するには骨吸収を起こしているか、もしくは初めから歯根の一部が骨のハウジングより突出している可能性があります。なぜなら、いくら歯肉が退縮しても骨は露出することがないからです。

 

 上下顎歯槽突起の水平断面 ラタイチャーク カラーアトラス 歯周病学 永末書店

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上図は歯槽骨と歯根の位置関係を示しています。歯は歯槽骨の外側寄りに存在し、歯根の外側にある歯槽骨は薄く、犬歯や下顎前歯は歯根がもともと骨より突出している可能性が高く、歯肉退縮を起こしやすい部位なのです。

c 歯肉のBio type

歯肉退縮の原因は主に乱暴なブラッシングによるものですが、起こしやすいタイプの人と起こしにくいタイプの人がいます。

薄い歯肉のタイプ厚い歯肉のタイプ

  Thin scallop(薄い歯肉のタイプ)        Thick flat(厚い歯肉のタイプ)


 
歯肉の生体的な型(Bio type)は、薄い歯肉(Thin scallop)と厚い歯肉(Thick flat)に大別されます(「歯周組織の解剖学的構造と歯肉・歯槽粘膜について」を参照)。 Thick flat typeは生体の防御能力は高く、機械的刺激(ブラッシング圧)にも抵抗性があります。しかし、Thin scallop typeは強いブラッシングで容易に退縮します。角化歯肉幅が狭いため、歯の付近まで可動粘膜が接近し、退縮が起きると角化組織を失う結果となります。
前述した様に(「歯周病とは(原因・自覚症状」を参照) 大切な歯を歯周病から守るためには、歯の周囲の汚れの停滞を防ぐことが重要です。つまり、ブラッシングしやすい環境が歯の周囲に整っているか否かでその歯の運命は左右されるのです。当然ブラッシングが上手な人とそうでない人がいるでしょう。しかし、誰もがブラッシングの達人になれるものではありません。ブラッシングが上手な方が良いでしょうが、忙しい中、毎食後に時間を十分費やして歯磨きできる環境をもっている人がそんなにいるのでしょうか?それよりも、簡単にそれほど気を使うことなしに短時間できれいに磨ける口腔内の環境を持っている方が、有利であることは言うまでもありません。
特にThin scallop typeの人は力をかけずに丁寧にブラッシングしなければ、歯肉退縮を招きますし、清掃不良を起こしたら、虫歯や歯周病の驚異に晒されてしまいます。
 

d.歯肉退縮の治療法


前述した様に、歯肉退縮を起こしやすい条件(歯が外側に位置していて骨が薄く、Bio typeがThin scallop)を有している人が乱暴なブラッシングを行うと、高確率で歯肉は退縮します。また、睡眠時に行なっている歯ぎしりなどで歯に強い側方力を常に受けていると、歯は動揺し薄い骨が吸収され歯肉退縮を起こす場合もあります。つまり、歯肉が退縮するにはそれなりの原因があるのです。
まずは原因の排除を優先します。歯肉退縮を広範囲に起こしている人は、硬めの歯ブラシでゴシゴシ音を立てて磨いている場合が多いと感じています。少し柔らかめの歯ブラシに変えましょう。そして、歯磨剤の使用量を少なくしで優しく丁寧に鏡で確認しながら磨きましょう。必要があれば、睡眠時に歯ぎしり用のマウスピースを使用しましょう。原因を排除して経過観察すると、付着が失われていなければ下がった歯肉はもとに戻る場合があります。しかし、付着が根尖側に移動してしまった場合、原因の排除を行なっても現状維持しかできません。
退縮した歯肉を元に戻すには歯肉を歯冠側へ引き上げ、そして薄い歯肉を厚い歯肉へとBio typeの変更を外科的に行う必要があります。歯列不正を伴う場合、歯科矯正で歯の位置を内側へ移動しなければならないことも、場合によってあります。
しかし条件により、回復率は異なります。

根面被覆術:Root Coverage
上皮下結合組織移植:Connective Tissue Graft (CTG)

Case 1 歯肉退縮・根面被覆・上皮下結合組織


歯肉退縮・根面被覆59歳の女性

59歳の女性です。上顎前歯部に冷水痛があり、審美的にも改善を希望されました。
全体的に退縮し、特に犬歯が顕著です。歯肉は薄く歯槽粘膜を介して歯根の形状が見えています。過去に虫歯になったようで、根面に修復物も認められます。


 
59歳女性の治療後6年経過の状態

治療後8年の状態です。外科的に歯肉を歯冠側に上げ、同時に上皮下結合組織を
口蓋より採取して移植を行い(上皮下結合組織移植:Connective Tissue Graft:CTG)
歯肉の厚みも改善しました。審美的にも改善され歯肉も安定しています。冷水痛もなく、ブラッシングし易くなったと患者様は喜んでいます。健全な歯を全く削ることなく審美的な結果を得ることが出来ました。
術後10年目でメンテナンスに通院して頂いております。


Case 2 歯肉退縮・根面被覆・上皮下結合組織


歯肉退縮を起こした20代女性

20代女性です。歯肉退縮を起こした下顎前歯部の状態です。全顎的に虫歯が多発し、
外側の根面には多数の修復治療の跡が存在します。今までは歯肉退縮の結果、根面が露出して虫歯となり、歯を削って修復治療を行っては再び虫歯になり、それを繰り返いていたようです。虫歯にならない様に一生懸命ブラッシングした結果、歯肉はもっと退縮し、退縮しないように弱い力でブラッシングした結果、再び虫歯になるという悪循環です。

 

歯肉退縮を起こした20代女性の治療後1年

治療後1年の状態です。根面の修復物と虫歯を除去し、外科的に歯肉を正常な位置に戻しました。同時にCTGを行い、歯肉の厚みも改善しました。角化組織の幅も増大しています。気を使うことなしにブラッシングが出来るようになり、患者様も喜んでいます。その後、虫歯は再発しておりません。


Case 3 歯肉退縮・根面被覆・上皮下結合組織


下顎前歯部に歯肉退縮を起こした50代女性下顎前歯部に歯肉退縮を起こした50代女性2

下顎前歯部に歯肉退縮を起こした50代女性。歯肉は薄く、角化組織の幅も狭いです。
犬歯部の退縮が顕著で、根面が虫歯になっております。上顎口蓋より厚い角化組織付きの結合組織を採取し、根面被覆術と同時に歯肉移植を行いました。

 
下顎前歯部に歯肉退縮を起こした50代女性術後4年の状態

術後4年の状態です。組織は安定し、清掃状態も良好です。審美的な結果も得られ、患者様にも喜んで頂きました。


Case 4 歯肉退縮・根面被覆・上皮下結合組織

30代女性

30代女性です。歯肉が下がり、根面に虫歯もあります。
 

30代女性2

右下臼歯部から前歯部にかけて、上皮下結合組織移植と根面被覆術を行いました。歯肉の高さが改善せれております。右下の修復物はやり直しておりません。

このように、歯肉の厚みの改善や角化組織を得る事により歯肉は長期的に安定します。また清掃性が高まることにより、虫歯や歯周病の抑制にもつながります。そしてこの術式は、下がった歯肉を元へ戻す事で歯にもダメージを与えることなく審美的な結果が得られる、とてもメリットのある治療法です。

e.角化歯肉の必要性について


歯周病(「歯周組織の解剖学的構造について」)で述べた様に付着の要は歯根と骨や歯肉の結合組織と強固に繊維により結合している結合組織性付着とその歯冠側に位置している上皮性付着です。この付着という生体のバリアーにより、細菌の体中への侵入を防いでいます。そしてその付着構造を守っているのが歯肉の上皮である角化組織です。
当然、角化組織の幅が大きい方がバリアー能力は高く、機械的刺激(ブラッシング圧)に抵抗性を示します。特に歯冠修復を行う際、歯肉縁下に修復物と歯の接合面を設定しなければならない場合、歯肉の厚みも重要ですが、非可動性の4mm以上の幅を持つ角化組織が歯の周囲に存在する方が、長期的に歯肉の位置の安定性が増化します。

角化歯肉がほとんどなく、清掃不良となっている

50代女性。角化歯肉がほとんど存在しないため、清掃不良を招き歯に大きな問題が起こっています。

歯肉退縮を起こしたり根面の虫歯が多い人は、もともと歯肉の厚みも薄いですが、角化歯肉の幅が狭い傾向にあります。つまり、歯の周囲のブラッシングしにくい環境の結果、プラーク(歯垢)が停滞し歯肉が炎症を起こして下がり、根面に虫歯ができるのです。

 

遊離歯肉移植術:FGG(Free Gingival Graft)
  歯肉弁根尖側移動術:APF(Apically Positioned Flap)

Case1 (FGG)  審美修復・FGG


Case1 (FGG)  審美修復・FGG

70歳女性です。高齢となり今後の体調を考えると体が元気な間に歯科治療を行い、将来食事に困ることがないようにしたいと思い、お口の中のいろいろな問題の徹底的な解決を希望されました。歯周組織再生療法を行い歯周ポケットの改善後、歯列の改善のための矯正治療も行いました。これから左下の修復処置を行いますが、その前に角化歯肉の獲得を行い長期的な歯周組織の安定化を図りました。歯の付近まで可動性の歯槽粘膜が存在し、角化歯肉はほとんど存在しません(矢印が角化歯肉と歯槽粘膜の境界)。
 

Case1 (FGG)  審美修復・FGG②
上顎口蓋部より角化組織を採取し遊離歯肉移植(FGG)を行いました。角化歯肉の幅は十分拡大されています(矢印が角化歯肉と歯槽粘膜の境界)。その後修復処置を行ないました。
写真は、治療終了後7年の状態です。清掃性は向上し、歯肉の位置も変化せず安定しています。患者様はお元気で、現在定期的にメンテナンスに通院して頂いております。

Case2 (APF)  審美修復・APF


Case2 (APF)  審美修復・APF

全顎的な治療を希望され来院された50代の女性です。顔に対し歯列が右下がりに傾斜しています。咬み合わせも深く、下顎前歯はほとんど見えておりません。下顎臼歯部にも大きな問題があり、保存不可能な歯もあります。審美性を重視した治療を患者様は希望されました。

Case2 (APF)  審美修復・APF②
治療終了後3年の状態です。臼歯部にインプラント治療を行い、咬み合わせの高さを上げた後に全顎的な矯正治療を行い、上顎前歯部に審美修復を行うため、骨外科処置と同時に角化歯肉の温存のためのAPFを行いました。角化歯肉幅は増大し、清掃性も良好です。審美修復を行う際、歯肉縁下に修復物の断端(マージン)を設定しなければならず、歯周組織の安定を図るには十分な角化組織の幅が必要となります。
審美的な結果が得られ、患者様はとても満足されております。